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大阪高等裁判所 昭和33年(く)19号 決定 1958年7月07日

抗告人 田村明義

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原裁判所は抗告人を中等少年院に収容する旨の決定をしたが、抗告人は悪いことをしていないし、審判の際裁判官は抗告人に一言も述べさせなかつたものであるから右決定は不服であるというのである。

しかしながら昭和三三年三月二四日の審判調書の記載によれば、原裁判所は右審判期日において原決定をするにあたり、本件事案に関し少年の陳述を聞いたこと、また右陳述の内容により、抗告人は本件戻収容の事由たる犯罪者予防更生法第三四条第二項に規定する一般遵守事項並びに同法第三一条第三項に基き近畿地方更生保護委員会の定めた特別遵守事項等に違反する所為に及んだものであることが明らかであるから、所論は採用するに由なく、その他記録を調査しても原決定には何ら法令違反、事実の誤認又は処分の不当等の点は見当らない。因みに犯罪者予防更生法第四三条の規定による戻収容の決定に対しては、同法に規定がないところから、抗告できないという説もあるので、当裁判所の採る抗告ができるとの見解の理由を左に示すこととする。即ち犯罪者予防更生法(第四四条第四五条第四九条ないし第五一条)によれば仮出獄の取消決定に対しては不服の申立が許されており、このことに鑑みると、これと類似する戻収容の決定も亦それ自体本質上不服申立になじまないものではないかと考えられる。尤も戻収容はその決定にあたり収容期間を二三歳又或る者については二六歳まで延長し得る、(同法第四三条)点において、仮出獄の場合とは異り単に執行を復元するに過ぎない性質のものとはいえないが、それ故にこそなお更然りである。ところで戻収容の決定が同法による不服申立の対象にされていないのは前者の決定が地方更生保護委員会の処分であるのに対し、本決定は延長収容の処分をも許すためと少年保護の特質上特に慎重を期するという見地から同法第四三条を以て、これを裁判所の措置に委ね、これらに関する手続は次に述べるとおり少年法及び少年審判規則等の規定に譲ることにした当然の結果によるものと思われる。しこうして少年法第三六条に基く少年審判規則によると、その第五五条に犯罪者予防更生法第四三条の規定による戻収容申請事件等の手続はその性質に反しない限り、少年の保護事件の例による旨規定せられているのであつて、「少年の保護事件の例による」とは、少年の保護事件について設けられている諸手続即ち少年法第二章並びにこれに基く少年審判規則の各規定によるものとした趣旨であると解せられる。そこで右規定のうち少年法第二章第三節に定められている抗告について、これを右戻収容申請事件の戻収容の決定に準用することが、その性質に反するか否かについて按ずるに、少年の保護事件の抗告に関する少年法第三二条の規定を見ると、抗告は保護処分の決定(同法第二四条第一項)に対して許されることに定められており、戻収容の決定は右いずれの保護処分の決定にも該当しないことが明らかであるけれども、右抗告の対象となつている右条項第三号の少年院送致決定と右戻収容の決定とを対比するときは、たとえ後者の主たる機能がいわば仮退院の措置の取消で、さきになされた保護処分の決定たる少年院送致決定の執行の復元と目し得るとしても右両者の各決定は、それによりいずれも少年を少年院に拘束するものであつて、互に相反するものではなく、むしろ実質的には同種のものと考えられる。それ故叙上の点を考え合わせると戻収容の決定に前記抗告の規定を準用しても、何らその性質に反するものとは思われない。

さすれば本件抗告は許されるのであつて、不適法とすべきものではない。

よつて本件抗告は、理由がないものとして棄却すべきものとし、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本武 裁判官 三木良雄 裁判官 坪倉一郎)

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